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高度成長期に確立したとされる「日本型経済システム」は、市場取引を「構造」によって制限するものであった。
経済の循環をとらえてみよう。
企業は労働と土地、資本(資金)を生産要素とし、利潤を上げることを目標として商品を生産する経済主体である。
一方、家計は労働や土地・資本を労働市場・土地市場・資本市場に提供し、賃金・地代・利潤(利子)を得て所得とする。
そうした所得を予算として、企業が提供する商品を需要するのである。
下請け企業の商品を中間財市場で原材料として購入する際は、長期的な取引慣行が存在した。
親企業にとって下請けは、細かい注文や無理を聞く便利な存在であるために、いったん取引を始めると継続することが費用の節約にもなり合理的だったのである。
労働・士地・資本という生産要素市場については、どのようになっていたか。
労働については、長期に労働者を雇用する終身雇用制や、賃金支払いと昇進にかんする年功賃金制が、大企業を中心にとられてきた。
資本市場では、間接金融が優位にあった。
家計の貯蓄は、多くが株などのリスク性の資産を買ったりするよりも、銀行を通じて企業に融資されてきた。
そして銀行を保護する制度として、大蔵省はながらく「護送船団方式」をとった。
金融機関のうち危機に瀕するものがあると、大蔵省が「音頭」をとって余力ある金融機関に「奉加帳」を回し、支援きせたのである。
企業は、主に融資を受ける「メインバンク」を持っていた(メインバンク・システム)。
メインバンクは、融資先の経営者の行動に注文をつけ、時には退任も求めた。
株式は企業グループで相互持ち合いされていたために株主総会ではガバナンスがきかず、メインバンクがガバナンスを務めていたのである。
また土地にかんしては、都市機能を向上させ住環境を維持し、景観を保護するために、都市計画法や建築基準法が策定され、売買と無秩序な立地・建築を規制してきた。
興味深いのは、こうした構造(諸制度・慣行・規制)が積み重なるようにして、全体としての「日本型経済システム」を構成していたことである。
大蔵省は、金融機関が危機に瀕した際には、それを回避するように音頭を取る(護送船団方式)。
銀行は、融資先企業が経営危機に陥ると経営陣に人を送り込み再生するというガバナンスを行う(メインバンク・システム)。
そして大企業は、終身雇用制や年功賃金制といった慣行によって労働者を擁護し、また下請けの中小企業との間で長期的取引慣行を維持してきた。
大蔵省が中心となり、末端の中小企業までが、労働と資本を「構造」によって市場から隔離し保護したのである。
また、ダムや高速道路といった公共財が全国に建設された。
マクロ経済政策は地方経済に対して景気対策の役割を果たし、企業の雇用を守った。
これにより、大蔵省→金融機関(とくに銀行)→企業→労働者、さらには政府→公共財供給企業→地方経済、という流れで安定を保証する堅固なシステムが構築されたのである。
それは日本経済を例のないほどの水準で安定させたが、背後で「政・財・官」の癒着をもたらした。
このシステムが、90年代に入りバブルの後始末の過程で「改革」と称する一連の運動によって解体されていったのである。
政治改革および行政改革が行われたが、これらは政・財・官の関係の不透明性(癒着)を排除し、情報公開の徹底によって政策決定過程の「透明化」をはかるものであった。
こうした「透明化」の過程を経て景気の回復が見られた1990年代後半になると、マクロ経済政策についても改革のメスが加えられ(財政赤字にもとづく景気安定化策の否定)、さらに生産要素にかかわる「構造」も解体されてゆく(生産要素の流動化)。
公共財の提供も民間に任せようとする(民営化)。
そうした一連の過程は「市場化」と呼べるが、それを後戻りのできない決定的なものとしたのが、K政権の「構造改革」路線であった。
92年にバブル崩壊が政府によって公式に認定されてからというもの、まずは毎年のように補正予算が組まれ、累積で100兆円を超える公共投資が実施された。
一方、「規制緩和」が経済活性化のための課題として唱えられるようになり、それは現在の「規制改革・民間開放推進会議」に受け継がれている(先に触れた酒販店の距離基準と人口基準は、それぞれ01年、03年に廃止され、現在は事実上、免許は自由化されている)。
これは要するに、製品市場にかかわる「構造」の改革だ。
そして95年頃にはいったん景気は回復し、政府もバブル後の資産調整がおおよそ終了したと宣言した。
そして97年前半まではなだらかで長期の好況が続いた。
公共投資がそうした経済情勢の基調を作ったことは、確かだろう。
けれどもその結果として財政赤字が激増し、97年には当時の大蔵省が累積赤字危機にかんするキャンペーンを張る。
H内閣はそれを受け、財政構造改革すなわち赤字財政のもとでの公共投資の縮小を宣言した。
もちろんそれは、日本経済がバブル崩壊のダメージから回復し、好況が持続されるという認識にもとづいた政策転換であった。
H内閣が目指したのも「構造改革」ではあったが、これは政府支出や公共投資といった「公共財」の供給を削減し、累積赤字を削減することを目指す「財政構造改革」であった。
97年の3月には「財政構造改革5原則」が策定され、6月には「財政構造改革の推進について」が閣議決定されて、2月には「財政構造改革の推進に関する特別措置法」が成立したのである。
ではなぜ今日「構造改革」はKバージョンを指すかといえば、同年4月に消費税の3%から5%への増税があり、9月には社会保険の負担増があったことを背景に、急激に景気が悪化、年末には金融危機に直面して、H改革が凍結されたからである。
05年夏からの民営化方針からすれば、H派的な族議員の一掃こそがKバージョンの主眼であったこともある。
97年の秋口になるとHの破綻とYの自主廃業が相次ぎ、金融危機が勃発した。
さらには貸し渋りから多数の中小企業が倒産し、失業率が急騰した。
そこでH政権の政策転換に批判が集まり、退陣を余儀なくされた。
その後に発足したO政権は一転して公共投資による景気対策に路線復帰し、2000年頃、いったん景気は回復した。
ここでも公共投資がある程度まで効果を発揮したことは事実であろう。
ところがその結果として財政赤字がさらに累積し未曾有の規模に達したため、公共投資は景気対策としては禁じ手となってしまった。
ここで政策は再転換される。
そのひとつが、景気対策としての金融政策である。
もともと90年代から名目金利は段階的に引き下げられ、最終的にはゼロ%となっていた。
にもかかわらず民間投資が増える気配を見せなかったため、01年3月から日銀は量的緩和に指針を転換、これも未曾有の規模でベースマネーを供給するにいたった。
だがそれでも民間投資には顕著な動きが見えず、世紀が改まってからはデフレが経済不振の原因だとする説が強まり、その説を唱えるエコノミストは、日銀にはさらなる量的緩和と同時に、「インフレ目標」を掲げることを迫った。
二つめは、K内閣の「構造改革」である。
これは由来こそH内閣のそれと同じく財政赤字を食い止めることだったが、さらに先鋭的な内容を含んでいた。
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